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一般財団法人 腸内フローラ移植臨床研究会
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UB-FMT により改善を認めた 過敏性腸症候群の3症例 [第3回総会発表内容]

2019年9月23日、一般財団法人腸内フローラ移植臨床研究会の第3回総会「腸内細菌から人類への手紙」が開催されました。

今回は、医療法人悠亜会 かわい内科クリニック 川井 勇一先生による「UB-FMT により改善を認めた 過敏性腸症候群の3症例 」の症例報告をお届けします。
なお、患者様の個人情報保護の観点から、情報を一部制限してお伝えしております。

全体の開催報告はこちらのリンクよりご覧ください。

医療法人悠亜会 かわい内科クリニック 川井 勇一先生

背景

多くの疾患に、腸内細菌叢の乱れ(dysbiosis)の関与が明らかになってきており、近年、過敏性腸症候群に dysbiosis の関与が示唆される報告は増加しています。

dysbiosis 改善の方法として糞便細菌叢移植(FMT)が世界各国で検討されていますが、現時点ではその科学的基盤や有効性は十分証明されていません。

過敏性腸症候群(IBS)について

過敏性腸症候群(IBS)という病気を簡単にご紹介します。

  • 腹痛・腹部不快感と便通異常(下痢、便秘)を主症状とし、長期間持続もしくは悪化・改善を繰り返すが、器質的病変を認めない機能性疾患群。(器質性疾患の除外診断)
  • 本邦での有病率は14.2%と高い。
  • ストレスと消化器症状悪化の相関係数が健常者より高い。
  • 遺伝子多型や副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン1 の関与が指摘されており、近年、腸内細菌産物(有機酸など)が影響し、dysbiosis が原因という概念が追加された。

有病率14.2%は非常に高く、100人に14人以上が過敏性腸症候群ということになります。
みなさんお腹、大丈夫ですか?

IBSに対する経口カプセルFMT 二重盲検スタディ

2018年、デンマークでIBS患者さん52人に経口カプセルにてFMTを行ったという研究発表が出されました。

これが非常にショッキングな結果でして、なんとプラセボ群のほうが有意に改善してしまったというのです。

川井先生の発表スライドより

ただこれはあくまでも経口カプセルを利用したFMTの話なので、今後は投与方法等も検証の対象になってくるかと思います。

症例1:過敏性腸症候群 下痢型(40代 男性)

<現病歴>

  • 20年来の慢性下痢。常にガスが溜まり10年前から増悪し、この3ヶ月特にひどい。現在は内服治療などはしていない。
  • 25歳から42歳までベトナムに居住。日本に帰ってきてから下痢はひどくなった。
  • 下腹部痛や下腹部のゴロゴロ感あり。
  • 胃液が逆流することがある。
  • 疲れやすく、些細なことが気になる。

<移植回数・経過>

まず検査で陽性だったピロリ菌の除菌を行い、その後1週間おきに3回の移植を施行しました。
投薬状況とブリストルスケールによる便性状の変化は以下の通りです。

まずブリストルスケールにおいて、6型と7型が2回ずつだったのが、移植後110日後にはバナナ状の4型が3回と、非常に綺麗に改善を認めました。
精神的にも改善されたようで、ご本人も非常に喜んでおられました。

<腸内フローラバランスの変化>

移植前、クロストリジウム系統菌群の多様性が低いこと、そのバランスが悪いことが特徴でした。移植によりそれらが改善し、症状の改善に結びついたと思われます。
また、移植前に検出のなかったプレボテラ属が出現していることも認められます。
乳酸菌、ビフィズス菌群は移植によって比率としては低下しています。

※こちらの患者さんは後にさらに3回移植を追加されておられます。詳しくは症例紹介記事をご覧ください。

症例2:過敏性腸症候群 下痢型、不安神経症(40代 男性)

<現病歴>

  • 1年半程前から1日2〜4行の軟便下痢と腹痛、お腹の張り、ゴロゴロ感、ガスがよく出るなどにて、近医受診し内服するも十分な改善なく、腸内フローラ移植治療を希望され来院。
  • またイライラや些細なことが気になる、安定剤を飲まないと飛行機など乗り物に乗れない、などの精神症状もあり。
  • 毎日筋トレしてプロテインを摂取、卵を1日に2個食べると下痢
  • 2年間炭水化物を抜いてみたが下痢は治まらず、最近やめた。

<移植回数・経過>

ほぼ一週間おきに6回の移植を行いました。ブリストルスケールによる便性状の変化は以下の通りです。

移植前のブリストルスケールは5型と6型が2回ずつだったのが、FMT施行後には4型のバナナ状便が1回に減っています。
「これは本当に俺の便か、と思った」というお言葉がとても印象的でした。

また、精神的にも安定されたようで、ご本人は非常に喜んでおられました。

<腸内フローラバランスの変化>

移植前、クロストリジウム系統菌群の多様性が低いこと、そのバランスが悪いことが特徴でした。移植によりそれらが改善し、症状の改善に結びついたと思われます。
ほとんど検出のなかった乳酸菌も増加しています。

※こちらの患者さんは後にさらに3回移植を追加されておられます。詳しくは症例紹介記事をご覧ください。

症例3:抗真菌剤投与後に発症した過敏性腸症候群 下痢型(50代 男性)

<現病歴>

  • 1年半前、爪水虫に対しイトリゾールを1か月内服後、爪水虫は改善したが下痢が始まり、現在も1日に約5行の食事毎の軟便~水様下痢が継続。
  • その頃仕事も忙しくなっており、出張でストレスが多くなると下痢がひどくなる。
  • 翌朝に疲れが残り、身体全体が重い。イライラや肩凝りあり。

<生活歴>

  • 小麦製品、乳製品の摂取多い(牛乳は飲まない)
  • アルコール:ウイスキー水割り 毎日7~8杯
  • 喫煙:無し

<移植回数・経過>

移植前にまず乳製品の中止とアルコールの制限を指導しました。
また、効き目の体感がない投薬も一旦中止し、診療補助水の飲用をはじめました。
移植は3回施行しました。

5型と6型が2回ずつ、7型が1回だったブリストルスケールは、移植2ヶ月後には4型のバナナ状便1回にまで減っています。
この患者さんは、ブリストルスケールに関しては少し間を置いてすごく良くなった点に特徴があります。

その他、本人の体感に関して、1回目の移植以降「食後の排便発作の来る怖さがなくなった」という感想が得られています。

過敏性腸症候群という病気は、いつトイレに行きたくなるかわからないという点で、精神的にストレスがかかる疾患です。
私の従兄弟も過敏性腸症候群でしたが、学生時代は1分以内にトイレに行けるように、通学圏内の各駅のトイレ、通学道路のどこにトイレがあるか全部頭に入っていたといいます。

非常にQOLを損なう疾患です。

この患者さんは、体重も5kg減ったようです。

<腸内フローラバランスの変化>

この患者さんの移植前後のフローラバランスの変化では、組織障害などで増えるBlautia属が減ったことや、組織修復に働くエクオール産生株が出現したことが挙げられます。

まとめ・結論

今回提示した過敏性腸症候群の下痢型3症例に共通して、腸内フローラの多様性の低下がみられました。

それぞれUB-FMT を3回または6回施行し、症状の明らかな改善を認め、それに伴う不利益な事象は見られませんでした。うち2例では、UB-FMT によりクロストリジウム系統菌群の多様性とバランスが改善し、消化器症状及び精神症状が改善したと思われます。

FMT は、ドナー選定、移植菌液の作成方法、回数、期間、前処置などストラテジーの違いで治療効果は大きく異なり、我々研究会のUB-FMT は、治療効果が高いと考えられます。

今後さらに移植効率の高い方法の追求と、UB-FMTの知見を積み重ねていきたいと思っています。ありがとうございました。

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