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一般財団法人 腸内フローラ移植臨床研究会
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腸内フローラ移植後4か月経過して改善を認めた アトピー性皮膚炎の症例[第3回総会発表内容]

2019年9月23日、一般財団法人腸内フローラ移植臨床研究会の第3回総会「腸内細菌から人類への手紙」が開催されました。

今回は、ルークス芦屋クリニック 城谷昌彦先生による「腸内フローラ移植後4か月経過して改善を認めたアトピー性皮膚炎の症例」の発表をお届けします。
なお、患者様の個人情報保護の観点から、情報を一部制限してお伝えしております。

全体の開催報告はこちらのリンクよりご覧ください。

ルークス芦屋クリニック 城谷昌彦先生

私は消化器内科医ですが、今回アトピー性皮膚炎の症例で非常に私自身も勉強になった例がありましたので、報告させていただきます。

アトピー性皮膚炎と発症原因

アトピー性皮膚炎には、遺伝的要因以外にも環境要因、栄養の過不足なども大いに関係していると言われています。

多くの場合は小児で発症し、掻痒を伴う慢性的な症状に悩まされます。
近年非常に患者数が増加していることも問題視されており、AD(Atopic dermatitis)という呼び方をされることもあります。

このように様々な要因がありますが、研究を進めていくうちに以下の2つが、アトピー性皮膚炎の発症や増悪に非常に重要な因子であることがわかってきました。

  • barrier dysfunction(バリア機能低下)
    皮膚は外と中を隔てるバリアです。
    腸、または粘膜も同じような構造をしています。
  • immune response (免疫応答)
    免疫は重要ですが、これが過剰に反応するとアトピー性皮膚炎などのようにアレルギー疾患を起こします。

アトピー性皮膚炎におけるT細胞

免疫においてはT細胞の働きが非常に重要です。

健常人の場合は、ヘルパーT細胞のうちアレルギーにかかわると言われるTh1細胞とTh2細胞のバランスが保たれています。
さらに、これらの暴走を制御するTregという細胞がしっかりと重しをかけてくれています。

アトピー性皮膚炎(特に症状のある場合)は、Th2細胞が暴走し、それをTregが抑えきれていない状況であると考えられています。

症状の落ち着いている場合ではTregがある程度働いて暴走を抑制してくれてはいるものの、未だTh2細胞の過剰な活動があると思われます。

リーキースキン(皮膚漏れ)とリーキーガット(腸漏れ)

Leaky Skin Hypothesis、皮膚漏れ仮説というのが最近注目されています。

皮膚はバリアとして、余計な異物が入ってこないように機能しています。
これが壊れてしまうと、毒素やアレルゲンが容易にバリアを通過してしまいます。

すると抗原提示細胞が異物の排除命令を出し、IgEという抗体が多量に産生され、それに伴いヒスタミンが分泌されます。

かゆいのでどうしても掻いてしまうのですが、それが刺激になって症状が悪化するという悪循環になってしまいます。

実はアトピーの人は、腸でも同じことが起こっている可能性があることがわかってきました。
Leaky Gut(リーキーガット、腸漏れ)という言葉は馴染みがあるかもしれません。

腸の上皮粘膜細胞のバリアが崩れて、毒素が漏れ出てしまう状態で、Th2細胞が過剰に反応してアレルギー反応が起こることがわかってきています。

一部では、アトピー性皮膚炎に伴うリーキーガットをADガット(アトピー性の腸)と呼ぶこともあります。

脳・腸・皮膚の相関関係

それでは腸を整えればアトピーがよくなるのではないか、という発想が生まれてきます。

実はこういった試みはすでに行われています。

  1. 食物繊維などの「プレバイオティクス」、乳酸菌や酪酸菌などの「プロバイオティクス」を摂ることで腸内細菌のバランスを整え、
  2. 結果として短鎖脂肪酸という生理活性物質が増え、
  3. 免疫の暴走を抑えるTregを増やす(分化誘導)されることで過剰な免疫の暴走を止める

以上のようなプロセスで症状を緩和する試みは、一部では成功しています。

このように、腸と皮膚は密接に関わっているのではないかということがわかってきました。

例えば腸で短鎖脂肪酸が増えると、皮膚の炎症がおさまる場合があります。
これをGut-Skin Axis 腸皮膚相関と呼びます。

また、アトピーの方はストレスを緩和すると症状が改善するケースが見られます。
これは脳腸相関という言葉があるように、脳が整うと腸も整うということです。
結果として、皮膚も整う。

最近では「脳皮膚相関」という言葉まで登場してきました。
食事の内容も重要な因子です。

ここで世界の論文での報告を紹介します。
まだ共通の見解には至っていませんが、アトピー性皮膚炎の方の皮膚常在菌を調べると、黄色ブドウ球菌が増加していて、結果として重症化、IgEの産生量と相関関係があるといった報告があります。

また他にも、シュードモナス、ストレプトコッカスなどの菌が増えているという報告もあります。

多くの文献で菌の多様性の低下が示唆されていました。

ADにおける腸内常在菌の特徴

一方でアトピー性皮膚炎患者さんの腸内細菌の傾向についての報告もあります。

Clostridiaや大腸菌(E.coli)の割合の増加、逆にビフィズス菌の減少、黄色ブドウ球菌の増加などが観察されています。

これもまだ共通の見解には至っていませんが、腸内細菌のバランスが悪くなっている、特に多様性の低下については多くの論文が論じています。

今年の論文でも、特定の菌がどのように関連しているかはまだ明らかではないけれど、関連はありそうだとの見解がありました。

症例:30代女性

本日は、学術的な話よりも、経過や写真でイメージを持っていただきたいと思います。

移植前(主訴、現病歴)

〈主訴〉:
皮膚掻痒感、慢性湿疹

〈現病歴〉:
幼少時からアトピー性皮膚炎があったがさほどひどくはなかった。
数年前にバーを開店してよくお酒を飲むようになり症状が増悪した。
お酒を止めると治るだろうと思い、禁酒するも改善傾向なく、皮膚科でステロイド剤(マイザー軟膏)をもらい使うようになった。
腸内環境を良くして皮膚症状を治したいとのことで来院となった 。

検査所見では、アレルギー反応と銅の過剰、亜鉛の不足が見られました。

経過1(移植開始〜移植期間直後まで)

  • 当初は食事療法、栄養療法などを提案するが、本人は腸内フローラ移植(UB-FMT)を希望。
  • UB-FMT計6回施行 (2018/6/27〜2018/7/25)
  • 1回目移植終了後、一時的にかゆみが治まったがその後すぐに増悪した。
  • もともと3日に1回程度であった排便は、2回目移植以降1週間でない日もあった。
  • 移植を続けるも掻痒感が強く、寝られない日もしばしば認めるようになった
  • 移植6回目終了時点では、皮膚症状の改善はなく、掻痒感も続いていた。排便も不調で残便感を感じる頻度が多くなった。

私も患者さんも「移植が本当に良かったのか?」と思うこともありました。

経過2(腸内フローラバランスの変化)

  • 移植終了直後、皮膚症状改善なく、便通はむしろ増悪傾向にあった。
  • 移植終了後2週間で施行した腸内フローラ検査では、著明な改善傾向を認めた。
  • 当初Pt自身はこれ以上の経過観察を望まなかったが、腸内フローラ検査結果を踏まえ、その後も経過観察をすることとなった。

移植前は、クロストリジウム系統菌群の割合が非常に高いことがわかります。
クロストリジウム系統菌群の割合が高いと免疫過剰を疑わせる所見ですが、これが移植後に程度な割合に減少していたため、免疫状態の改善を伺わせます。

また緑色のバクテロイデスは、線維芽細胞の活性化を促す短鎖脂肪酸を多く産生するため、症状の改善が期待できます。

この方に使用したドナーの方は非常にバクテロイデスの比率が高く、この菌の働きに期待して選定しました。

この時点(移植後3ヶ月)ではまだ皮膚症状の改善には至っていません。

経過3(終了後4ヶ月)

  • 移植終了直後、4ヶ月頃より掻痒感の改善、便通の改善(毎日 BS Type4)を認めるようになり、夜間の睡眠もしっかり取れるようになった
  • 移植後4.5ヶ月で来院した際には、皮膚の乾燥や発赤、出血、浸出液などは残存していたが改善傾向にあり、それまで使用していたステロイドの使用も止めていた。
  • 来院時、移植の効果を実感し、表情も明るくなった

経過4(終了後8ヶ月)

  • 移植終了直後8ヶ月では痒みのない状態が維持されており、皮膚の状態も改善傾向にあった。
  • 精神的にも落ち着き、疎遠だった家族との関係性も改善した。
  • アトピー性皮膚炎を持つ娘(3歳)にも移植を受けさせたいとのことで申し込みをされた。

症状の経過(写真、本人談)

こちらが経時的に見た写真です。
移植直後は一時的に増悪していますが、半年後には非常に改善しています。

症例まとめ

  • アトピー性皮膚炎に対するUB-FMTを施行した。
  • 移植直後には症状の増悪を認めたが、移植後約4ヶ月経過した時点で症状の改善傾向を認めた。
  • 移植後1年後も掻痒感なく、ステロイドは使わず経過している。

こちらの患者様の経過につきましては、症例紹介記事にも掲載しております。

考察

  • アトピー性皮膚炎において、皮膚常在細菌叢の乱れを認め、皮膚バリア機能の低下を伴う。(Leaky Skin)
  • さらに腸内細菌叢の乱れ、腸上皮細胞の透過性亢進を認める。(Leaky Gut)
  • 腸内細菌叢の乱れが免疫応答の異常をきたし、アトピー性皮膚炎の発症、増悪に関与していると推測されている(Gut-skin axis)がそのメカニズムの詳細についてはまだ明らかではない。
  • 腸内フローラ移植は腸内細菌叢の種類、特にクロストリジウム系統菌群のバランスを変化させ、皮膚における炎症を制御する可能性が示唆された。

UB-FMTはアトピー治療の選択肢になりうるか、さらに研究を重ねる必要があります。

これまでの研究会の症例(おまけ)

「症状の明らかな改善」以上の評価の症例のみを集めたところ、75%の有効率がありました。
この数字は、腸と皮膚症状の相関関係を示しているものと言えそうです。

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