2019年9月23日、一般財団法人腸内フローラ移植臨床研究会の第3回総会「腸内細菌から人類への手紙」が開催されました。
今回は、医療法人仁善会 田中クリニック 田中善先生による「腸内環境の重要性 〜開会の挨拶にかえて〜」をお届けします。
全体の開催報告はこちらのリンクよりご覧ください。
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一般財団法人 腸内フローラ移植臨床研究会は2年前に発足し、おかげさまで今回で3回目の総会を迎えました。
試行錯誤しながらも、やっと形になってきた段階です。
私を含め臨床医が中心になって、病気で困っている人の役に少しでも立てたら、と活動しています。
本日お越しくださっている方の7割は一般の方だと聞いています。
そこで、挨拶に代えまして、私から「腸内環境の重要性」について基本的なお話をさせていただきたいと思います。
目次
腸内細菌が注目されるようになって、善玉、悪玉、日和見などと呼ばれていますが、私たちはこのような区別は一切しません。それは、すべての菌が必要だという立場を採っているからです。
菌と私たちが共存し、それぞれにとって必要なものを補い合っています。菌にとっても、人間が死んでしまっては住むところがなくなってしまうわけですから、頑張って人間(つまり住処)を健康にしようとするのです。
病気は、何らかの原因があって、その結果として出てくるものです。
ところが、今の治療の大半はその原因にアプローチせず、表に出てきている臨床症状や検査の数値異常しか見ようとしません。
薬で一時的に対処しているだけなので、コレステロールの高値や高血圧に対して、ずっと薬を飲み続けないといけなくなるわけです。
原因に届かない限りは、根本的な治療にはなりません。
そもそも病気にならないために、「毒を入れない」ということが大切です。
多少の毒は体が解毒しようとしてくれますが、外から入れるものは体に必要なものをバランス良く取り入れること。
実はこの「解毒」と「体に必要なものをつくる(ビタミンなど)」ということを同時に行っているのが腸内細菌たちなんです。
腸内フローラという言葉は近頃あちらこちらで耳にするようになりました。
腸の中に住んでいる腸内細菌たちが、まるで様々な花が咲きみだれるお花畑のように見えることから、こう呼ばれています。
腸内細菌同士だけではありません。
すべての生き物は、共存共栄していると言えます。このバランスが崩れてしまうと、様々な問題が起こってきます。
私は個人的にニホンミツバチを増やす活動をしています。
ニホンミツバチは、他の様々な生態系を支える生き物であると言われています。
しかし彼らは農薬などによってどんどん数を減らしています。
結果として奥山で植物が育たず、熊などの動物が山から里へ降りてきます。
その熊たちを、私たちはほとんどためらいなく殺してしまいます。
これでは共存などできません。
この問題には、日本の農薬規制が非常にゆるいことなどが背景にあります。
きゅうり、ピーマン、トマトなどの発育にも影響を及ぼしています。
生き物同士がかかわりあって共存している。
そのもっとも密な関係が、実は私たちと微生物たちです。
私たちの腸、皮膚、膣などの体の一部に彼らは直接住み着き、ともに一つの生命体を作り上げていると見ることもできます。
近年になって、腸活、菌活といった言葉が誕生し、ヨーグルトの市場は4,000億円にもなるそうです。
NHKでも特集が組まれ、注目度は高いです。
医学の父と言われるヒポクラテスは、2,400年も前にこんな言葉を残しています。
すべての病気は腸からはじまる。
海外では「ヒトマイクロバイオーム計画」として10年以上前から微生物に関する研究が進んでいます。
一方、日本ではあまり盛り上がっていません。
私たち「ヒト」は、脊椎動物の比較的新しい分類の生命として存在しています。
生命のはじまりは35億年前とも言われ、腔腸動物、つまり腸だけの生き物だったことをご存知でしょうか。
今では腸のみならず体全体に何百兆もの微生物が私たちとともに暮らしています。その数、遺伝子は私たちの細胞の数よりもはるかに多く、決して無視できる数字ではありません。
便の3分の1は腸内細菌であること、約1.5kgという肝臓に匹敵する重さを考慮しても、私たちはもっと微生物(菌)を気にかけて暮らすべきかもしれません。
腸内細菌は様々な働きをして私たちの健康に寄与してくれていますが、代表的なものだけでも4つあります。
それが「代謝」「免疫」「通信」「有用物質の産生」です。
それぞれの細菌ごとに得意分野があり、相互にかかわりあいながら活動しています。
Aの菌があるからBの菌が働く。そのBが出した物質を利用してCが働く、というふうな仕組みになっているので、特定の菌だけが多い少ないという議論は実はナンセンスです。
腸内細菌同士、そして宿主である私たちがチームとなって、生命体を形作っています。
このように、私たちがぜひ大切にしなければいけない細菌たちを、私たちは日々いじめ続けています。
殺菌、滅菌、抗菌という言葉は今やポジティブな意味合いで使われます。
「菌は悪いもの」というすりこみがあるからです。
食生活の欧米化や、気軽な抗生物質の過剰使用も相まって、現代人の腸内細菌たちはめちゃめちゃになってしまっています。
子供の頃は元気でも、大人になるにつれて病気が増えていくのは、このような背景もあるのではないでしょうか。
皆さんには、改めて腸内細菌の重要性をあえて意識していただきたいと願っています。