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自閉症スペクトラムにおける腸内フローラ移植が及ぼす消化管症状と腸内細菌叢の変化【セミナー情報あり】

脳腸相関は使い古された言葉なのかもしれません。腸内細菌と自閉症スペクトラム(ASD)が関連しているかもしれないと聞くと、驚く方も多いのではないでしょうか。

実は、この「かもしれない」は世界中の研究者の手によってほとんど確実視されてきているんです。((Autism Spectrum Disorder and the Gut Microbiota in Children: A Systematic Review – FullText – Annals of Nutrition and Metabolism 2020, Vol. 76, No. 1 – Karger Publishers))((Alteration of Gut Microbiota in Autism Spectrum Disorder: An Overview))((The gut microbiota regulates autism-like behavior by mediating vitamin B 6 homeostasis in EphB6-deficient mice | Microbiome | Full Text))

自閉症スペクトラムやアスペルガー症候群は「病気」ではなく「特性」であるとされています。つまりは治療するものではないという認識が広くあります。

社会生活を送る上で不便になってしまうであろう行動については、ご両親たちの辛抱強い教育によって少しずつ直していき、支障がでる場合には抗てんかん薬や抗不安薬が使われることもあります。

しかし、「ぜんぶその子のいいところなんだと受け入れ、肯定していくこと」が必要ではないでしょうか?

そんな発達障害が「治る」という文脈で語られることに、不愉快な思いをされる方もいます。

保護者の方にとっても、発達障害を診断されたご自身にとっても、それまでの「我が子」「自分」が失われてしまうような、悪くすれば否定されてしまうような気分になるかもしれません。

今の状態が悪いとするからこそ、それをよい状態に戻そうという心理が働くわけですから。

でも、発達障害を抱えながらこの心の狭い社会で生きていくことに困難が生じる以上、その苦しみを少しでも和らげたいと望むのは、たぶんそんなに悪いことじゃないはずです。

あとで苦しみがなくなってから、「あの治療のおかげで、わたしの天才性が損なわれて、凡人化したよね」と笑うこともできると思います。

腸内フローラ移植(便移植)とASDの関係

まず、ASDというのはAutism Spectrum Disorders(ASD)の略で、日本では自閉症スペクトラムを差すことが多いようです。
海外ではアスペルガー症候群や広汎性発達障害とひとくくりにされてASDと呼ばれることが多いようで、海外で発表される論文でもASDの呼び方が使われています。

腸内細菌とASDの関連性が明らかになるにつれて、腸内フローラ移植のASDへの有効性を確かめようという流れも出てきています。
下に示す2つのリンクは、海外で2年間の追跡とともに行われたASDの子供たちへの腸内フローラ移植臨床試験の論文を、わかりやすく日本語で解説したものです。

自閉症スペクトラム(ASD)と腸内フローラ移植は相性がいいらしい。【対象疾患と方法についての考察】

【ASDその後】便移植におけるプロトコルや改善までの時間差についての考察

これにより、子供たちの個性が失われることはなく、むしろ子供たちの苦しみが減少し、親の心労や肉体的負担も減ったように思われます。

この日本版を今回、一般財団法人腸内フローラ移植臨床研究会がやろうとしています。
アリゾナ大を筆頭に名だたる大学が参加しているこの論文のような経済的余裕はないですが、この研究チームのような優しさに溢れたプロジェクトにしたいです。

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