国内外の取り組み

海外の便バンク整備状況

アメリカの取り組み

現在、アメリカ最大の便バンク「OpenBiome」では、対象疾患をCDIに限り、国内の医療機関に安全なドナー便を提供しています。当該ウェブサイトによると、これまで62,000件以上に及ぶ便の提供を行っています。2017年に各研究機関と学会と共に糞便微生物叢移植に関する指針を取りまとめていく国内指針運営委員会が開催されています。

中国での取り組み

(中国・第三軍医大学)は、抗菌薬の事前投与は行わないが、高濃度PEG-ELS溶液の大量投与を行った後に、「生理食塩水を用いるFMT」をASD児40症例に適応する臨床研究を報告しています。その結果、移植後4週において、重度のASD児40症例のうち、約60%に症状の軽減が認められたものの、それらはいずれも重度の域を出ず、軽度まで症状が軽減される例はありませんでした。さらに、上記の症状の低減効果は持続することなく、移植後12週では、移植前に近い状態に戻ったことが記されています。

オーストラリアの取り組み

オーストラリアでは2020年には先進医療扱いで糞便微生物叢移植の症例がすでに12,000件もあります。2021年以降糞便微生物叢移植はバイオ医薬品扱いとなり法規制が変わっています。アメリカと比較しオーストラリアでは柔軟な対応で糞便微生物叢移植の活用を促す方針が打ち出されています。

欧州の取り組み

唯一オランダのみドナーバンクが存在しています。EU全体としてのルール作りを試みたものの統一見解をまとめることの難しさから、現在は、各国国内法に委ねる方針に変わっています。リサーチの症例報告は多いものの、実際の糞便微生物叢移植の症例としては少ないのが現状です。2017年に臨床診療における糞便微生物叢移植に関する欧州コンセンサス会議が10カ国28人の専門家により開催されています。

[参考]

FMT Protocol

※FMT国内指針運営委員会(アメリカ国立衛生研究所、アメリカ消化器病学会)

European consensus conference on faecal microbiota transplantation in clinical practice | Gut

※欧州10カ国以上、28人の有識者会議で合意を得たFMTの臨床応用指針

https://www.ndfb.nl/

オランダのドナーバンク

http://fmtbank.org/en/about-us-2/

中国のドナーバンク

https://fmt-japan.org/research_activities/study

本ウェブサイト関連論文

基本的な考え方

糞便微生物叢移植(FMT)の安全性に関する国内外の状況

米国食品医薬品局(FDA)は、安全性確保のために、FMT を用いる臨床試験を実施する場合には、治験薬(Investigative new drug; IND)申請に基づいた臨床開発を実施することを求めています。 日本でも2020 年よりClostridioides difficile 感染症に対する先進医療Bでの保険適用の可否を検討するための単群検証的試験が進められています。 その他の国においてもFMTへの規制に関する議論が始まっています。

FMTによる重大な有害事象は、独立行政法人医薬品医療機器総合機構からの「マイクロバイオーム研究に基づいた細菌製剤に関する報告書」に取り上げられています。以下は、それに基づいて記載しました。
国内では、重大な有害事象は報告されていませんが、米国では2019 年に2 名(1 名死亡・1 名回復)の重大な有害事象が報告されています。

2019年3月にマサチューセッツ総合病院(MGH)で、院内において作製された同一ドナー由来のFMT 経口カプセルを投与された2 名の患者がESBL(Extended spectrumβ-lactamases)産生菌に感染しました。 1 名はC 型肝炎による肝性脳症治療の目的でFMT が実施されましたが、ESBL産生菌感染が発覚、抗菌薬治療により回復しました。 もう1名は骨髄異形成症候群の治療のため造血幹細胞移植を受ける患者(シクロホスファミドとミコフェノール酸モフェチル投与後)において、移植片対宿主病(graft-versus-host disease;GVHD)の予防の目的でFMT が実施されましたが、造血幹細胞移植後にESBL 産生菌感染が発覚し重度の敗血症により死亡しました。FDA は速やかにアラートを発し、全国でFMTの提供を停止させました。
原因究明が行われた結果、MGH ではFDA ガイドラインで求められているESBL 検査を行っておらず、ドナー便がESBL 産生菌に汚染されていたことが判明したため、アラート後3 ヶ月でESBL検査を徹底する勧告を出してFMT を用いたIND 試験が再開されています。
さらに、2020年には、6名(全員回復)の重大な有害事象が報告されています。FDAは、本事象を、ドナー便に基因する腸管病原性大腸菌と志賀毒素産生性大腸菌による有害事象として、アラートを発しています。

このように、FMT の安全性に関して最も配慮すべき点は、重篤な感染症をもたらす可能性があることです。例えばCOVID-19 は、便中からウイルスが検出されたことから、感染の原因になりうることがパンデミックの早い段階で指摘されていました。FDA は2020 年3 月に安全性アラートを発し、2019 年12 月1 日以降に取得した便を用いたFMT 便ジュースの提供に際し、COVID-19 の感染防止対策(ドナーの感染検査とレシピエントの追加合意取得)を要請しました。
FDAがFMT に関するレビューの中で提案している配慮すべき感染症の検査として、病原性細菌、真菌、ウイルス、寄生虫などの検査がありますが、わが国ではE 型肝炎ウイルスなども考慮する必要があるとされています。

糞便微生物叢移植(FMT)の有用性と国内外の経緯

糞便微生物叢移植は、現在国内外の各機関で研究が行われ、潰瘍性大腸炎、過敏性腸症候群で一定の効果が認められています。ただし日本においては未だ臨床研究法の対象になっていないため、最終的な評価は出ておらず全額自己負担診療となっています。
これまでのFMTの有用性に関する国内外の経緯を下記にまとめています。新しい情報については当サイトのブログで適宜発信していく予定です。

糞便微生物叢移植のもっとも古い起源は4世紀頃の中国で、下痢が止まらずに悩んでいた人のお尻に健康な人の便を入れたところ下痢が治ったことが最初の治療例だと言われています。それから時は下り、1958年の偽膜性腸炎に関する報告を皮切りに、欧米諸国では糞便微生物叢移植の研究が進んできました。

糞便微生物叢移植が再び注目を浴びたのは、2013年のオランダの研究で、クロストリジウム・ディフィシル感染症(CDI)に対する治療効果がきっかけでした。CDIとは、外科手術等で抗生物質を大量に使用することにより、抗生物質に耐性を持ったクロストリジウム・ディフィシル菌のみが異常繁殖してしまい、本来は何千種類もいるはずの腸内細菌叢の多様性が失われ、最悪の場合は命に関わるとされる疾患です。アメリカでは毎年50万人以上がこの疾患に罹患し、毎年3万人が命を落としています。

その翌年の2014年にアメリカ食品医薬品局(FDA)は「CDIの多剤耐性時に、糞便微生物叢移植が第一に選択すべき治療法である」と位置づけ、医学的にもその有効性が証明されつつあります。
一方で2019年には同FDAから、移植実施時に適切なスクリーニングを行なわず致死的な菌を移植し死者を出した事例について「糞便微生物叢移植には深刻な感染リスクが潜んでいる可能性がある」と警告が出されました。

2021年現在、糞便微生物叢移植は同FDAの執行裁量の方針の下に存在し、CDI治療に使用できるようになっています。しかしながら、確かな菌液の提供と説明責任を果たせる専門病院の選択なくしては、糞便微生物叢移植という新しい治療法の効果を得ることは難しいと言えるでしょう。

日本における糞便微生物叢移植の研究は、2013年に各地の大学病院など8施設において、潰瘍性大腸炎とクローン病に特化した臨床治験が始まり(2016年に第一相が終了)炎症性腸疾患に対する効果が順次発表され始めているところです。

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