海外の便バンク整備状況
アメリカ
OpenBiome
ウェブサイト:https://openbiome.org/
国:アメリカ
設立年:2013年1月15日
詳細:
マサチューセッツ工科大学の大学院生2人とその指導教官により立ち上げられた非営利組織。設立当初から全国の病院へのFMT菌液供給機関として重宝されてきた。2013年春、FDAがごく一部の認定医療機関以外でFMTの実施を禁止する発表を行ったが胃腸科専門医からの激しい抗議によりすぐに撤回された。その後、2022年にFDAが第三者組織としての便バンクを事実上認めない方針を示したため、現在はミネソタ大学と連携してFDAの指針に沿った形で運営している。常に規制と隣り合わせの大変な状況だが、2024年2月までに70,000件以上のFMT菌液を提供し、多くのCDI患者の命を救っている。30種類以上の疾患に対して治験も行っており、論文数も相当ある。(https://openbiome.org/microbiome-education/publications/)
ドナースクリーニング:現在募集なし。
対象疾患:クロストリジオデス・ディフィシル感染症(CDI)
カナダ
MTOP
ウェブサイト:https://mtop.ca/get-involved/
国:カナダ
設立年:2016年
詳細:トロント大学マイクロバイオータ治療成果プログラム(The University of Toronto Microbiota Therapeutics Outcomes Program (MTOP))の一環として実施されている。
ドナースクリーニング:
ドナー候補者はまず、以下の質問に答えることを求められる。
質問
1, 提供期間中、あなたの年齢は18歳から45歳の間にありますか?
2, あなたのボディマス指数(BMI)は18.5~23の間にありますか?
3, 週に3~5回便を提供することができますか(マウントサイナイ病院に便サンプルを届ける)
4, 現在、ビタミン、サプリメント、抗生物質、プレバイオティクスやプロバイオティクス、避妊薬などを含む薬を服用していますか?
5, 次のいずれかの病気を指摘されたことがありますか:シャーガス病、変性神経疾患、自己免疫疾患、および/または慢性肝疾患
6, 以下のいずれかに該当する場合は「YES」をチェックしてください。それ以外の場合は「NO」をチェックしてください。
過去12ヶ月間に次のいずれかを行ったことがありますか?
a. 肛門性交を受けた。
b. 薬物を静脈、筋肉、または皮膚に注射した。
c. お金や薬物のために性交渉をした。
d. 上記a~cに該当する人物と性交渉をした。
e. HIV(エイズ)またはB型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスの感染が疑われる、または知られている人物と性交渉をした。
f. 矯正施設の受刑者であった。
g. 活動性B型肝炎ウイルス感染者と密接な接触をした(例:同じ家に住み、台所や浴室施設を定期的に共有した)。
詳しくは下記を参照。
https://mtop.ca/donor-screening-questionnaire/
このあと、血液検査や便検査を受けることになる。
ドナー便に対しては報酬が支払われる。
対象疾患:クロストリジオデス・ディフィシル感染症(CDI)、炎症性腸疾患、肥満、2型糖尿病、メタボリックシンドローム、不安、うつ病、さまざまなアレルギーおよび自己免疫疾患など、広範囲の慢性疾患
さまざまな疾患を対象としたFMTにおけるドナー選定に関する論文を出版している。
マクマスター小児病院
国:カナダ
設立年:2023年
詳細:ハミルトンヘルスサイエンス(HHS)マクマスター小児病院(MCH)による小児用便バンク。再発性C. difficileに対して使用される。
マクマスター大学とマクマスター小児病院は、小児IBDとFMTに関する論文を出版するなど、かねてより小児腸疾患とFMTについて関心を寄せていた。
ドナースクリーニング:小児のドナーを募集している。
対象疾患:小児クロストリジオデス・ディフィシル感染症(CDI)
中国
China Microbiota Transplantation System (CMTS)
ウェブサイト:http://fmtbank.org/en/home-en/
国:中国
設立年:2015年
詳細:
南京医科大学第二附属医院のFaming Zhang氏らが立ち上げた非営利組織。
緊急にFMTが必要な場合での使用が想定されており、日本、欧米、オーストラリアからの患者も受け入れている。FMTの適応かどうかを自動で判断させるシステムを構築している。
また移植懸濁液作製方法としては自動微生物精製システム「GenFMTer」を使ったwashed microbiota transplantation (WMT)という方法が確立されており、移植ルートについてもTransendoscopic Enteral Tubing(TET) という結腸チューブを用いた方法を開発している。
ドナースクリーニング:
他の便バンクに比べてドナー年齢が低いことが非常に特徴的。
・性的経験のない10〜18歳が好ましい。時には健康な大学生や大学院生や若いスタッフを選ぶこともある。特定のケースでは、子供も含めることができる。
・便検査を実施して、感染症や炎症、病原性感染症が認められないこと。
・他のドナースクリーニング基準を実施することもある。
・書面によるインフォームドコンセントは、ドナーまたは未成年のドナーの両親または法定後見人から取得する必要がある。
対象疾患:クロストリジオデス・ディフィシル感染症(CDI)を含む重篤な感染症、偽膜性腸炎、薬剤耐性菌感染症など
香港
アジアマイクロバイオータバンク(The Asia Microbiota Bank)
※休止
ウェブサイト:http://asiabiobank.com/
国:香港
設立年:2016年
詳細:
FMTを提供したい医療機関が登録し、移植菌液を購入する方式。
ソーシャルビジネスとしての商業便バンクの形態を採っている。凍結経口カプセル形態または凍結液体形態(大腸内視鏡または浣腸方式での移植を想定)の製品をラインナップしている。
Fecal Microbiota Trandplantation(FMT, 糞便微生物移植)ではなく、Human Microbiota Transfer(HMT, ヒト微生物移植)と呼称しているところがユニーク。
通常のプログラム概要:
患者は、連続した5日間または2セットの5日間(合計10日間)のHMT移植を2〜3週間の期間に受ける。 HMT移植は経口カプセルまたは大腸内視鏡で提供されるため、 HMT治療を受ける前に事前準備として腸内洗浄を受ける。
サンプルスケジュール:
1日目:腸管洗浄
2日目:大腸内視鏡によるHMT提供
3〜5日目:経口カプセルによるHMT提供
価格概要:
HMTの小売価格は推奨価格。各病院やクリニックは、含まれる内容に応じてプログラムの価格が異なる場合がある。
5回の投与プログラム、カプセル提供:HK $28,800(約53万7,083円)
10回の投与プログラム、カプセル提供:HK $37,800(約70万4,895円)
初回投与の大腸内視鏡:HK $11,000(約20万5,128円)
健康なドナーの募集とテストのコストは非常に高い。手順は簡単に見えるかもしれないが、安全で優れた便ドナープログラムを維持するための運営コストは高く、この価格は他の便微生物移植センターよりも比較的低価格である。
新型コロナ(Covid-19)のリスクを鑑み、2020年2月から現在まで事業を休止している。
ドナースクリーニング:
欧米のスクリーニング基準に加え、炎症性マーカーや消化器の健康状態などの追加項目を設定している。ドナーは150項目の問診、50項目以上の検査を合格する必要がある。
【質問例】
お腹の調子はいいですか?
寄付期間中は18〜50歳ですか?
あなたのボディマス指数(BMI)は30未満ですか?
過去3ヶ月間、薬や抗生物質を服用していませんか?
最低3ヶ月以上、週に3回以上の寄付が可能ですか?
対象疾患:
過敏性腸症候群(IBS)、炎症性腸疾患(IBD)、クロストリジオデス・ディフィシル感染症(CDI)、潰瘍性大腸炎(UC)、またはその他の消化器疾患などの慢性腸疾患
香港中文大学
ウェブサイト:https://www.cuhkibd.org/stoolbank
国:香港
設立年:不明
詳細:当大学の臨床研究に参加する形
ドナースクリーニング:不明
対象疾患:クロストリジオデス・ディフィシル感染症(CDI)、過敏性腸症候群(IBS)、糖尿病
オーストラリア
消化器病センター(Centre for Digestive Diseases (CDD))
ウェブサイト:https://centrefordigestivediseases.com/faecal-microbiota-transplantation/
国:オーストラリア
設立年:1984年(FMT実施は1988年から)
詳細:Thomas Borody氏がシドニーで設立した消化器病センターではこれまでに14,000件のFMTが実施されており、彼はオーストラリアのFMTにおける権威的存在となっている。
彼は長年をかけて独自のFMTプロトコル(CDD FMTプロトコル)を作り上げ、これをもとに治療を実施している。
https://centrefordigestivediseases.com/cdd-fmt-protocol/
また、潰瘍性大腸炎(UC)に効きやすいドナーの特徴を研究する(3)など、FMTの手法改善に尽力している。
ドナースクリーニング:
16歳から60歳まで
毎日健康で形のいい排便がある
収集から2時間以内に便をセンターに届けることができる
全体的に健康で、BMIが正常である
不調、慢性または急性の病気がない
薬を飲んでいない
定期的な健康診断に参加し、スクリーニング検査を受ける意思がある
上記にチェックがつけば、正式な申込みを行うことができる。
さらに、ドナーに対しては厳格な食事制限がつくところがユニークな取組みである。
ドナーになると、便の提供の3〜4日前から以下のような食生活への変更を「強く」勧められる。
摂取すべき食品
すべてのパン、シリアル、穀物は全粒粉を使用すること。これにはパン、パスタ、米、朝食用シリアルが含まれます。
新鮮な野菜をたくさん食べること(トウモロコシを除く)。
豆類や豆の加工品を食事に含めること(レンズ豆、ひよこ豆、豆類、ホムス)。
1日に少なくとも2つの果物を食べること。
1日少なくとも1リットルの水を飲むこと。
ドナーには、腸内の善玉菌の増殖に適した環境を作るのに役立つとされるサプリメントの摂取が推奨されます。これらのサプリメントには以下が含まれます。
アップルペクチン
イヌリン – 注意: メーカーが指定する最低の治療用量から始めることが推奨されます。
N-アセチルグルコサミン (N-A-G)
避けるべき食品
貝類、エビ、カキ、生魚、サラミ、ハムやソーセージなどの加工肉を避けること。
すべての抗生物質を避けること。
参考:https://centrefordigestivediseases.com/the-cdd-donor-diet/
対象疾患:クロストリジオデス・ディフィシル感染症(CDI)、潰瘍性大腸炎(UC)を含む炎症性腸疾患(IBD)、過敏性腸症候群(IBS)など
さらに多発性硬化症などの自己免疫疾患、自閉スペクトラム症などへの効果も経験している。
BiomeBank(Centre for Digestive Diseases (CDD))
ウェブサイト:https://www.biomebank.com/
国:オーストラリア
設立年:2018年
詳細:オーストラリアで初となる第三者便バンク。
2022年、世界で初めてのFMT承認薬「Biomictra」を開発した会社で、現在は再発性クロストリジオデス・ディフィシル感染症(rCDI)患者に対する提供を行っている。
当社ではドナー便に頼ることのない人工便をつくる技術を確立し、将来的にドナーの寄付から人工培養した微生物への移行を目指している。
2025年からは潰瘍性大腸炎を対象とした治験が始まる予定。
ドナースクリーニング:
ドナー候補はまず下記の項目をセルフチェックする。
健康であること
18歳から50歳までの年齢であること
アデレード首都圏に住んでいるか、アデレード中央の21 North Terraceにあるドナ施設に定期的に通えること
次の条件に該当する場合はドナーになれない:
治療中の疾患がある
妊娠している
プログラム開始前3ヶ月以内に経口抗生物質治療を受けた
牛海綿状脳症(狂牛病)に曝露される可能性のある地域に住んでいた
現在喫煙者であるか、過去90日以内に喫煙したことがある
過去に腸疾患(過敏性腸症候群、炎症性腸疾患(クローン病や潰瘍性大腸炎を含む))を患ったことがある、または胃腸障害の症状や胃関連の癌、または手術を受けたことがある
以下の感染症に罹患したことがある:HIV、HTLV、梅毒、B型肝炎、C型肝炎
自己免疫疾患、心臓病、糖尿病、高コレステロール、脳卒中と診断されたことがある
生体または非生体の人細胞や組織を受け取ったことがある、または移植を受けたことがある
条件を満たした場合、面接と便、血液検査、鼻腔拭き取り検査を行う。
合格すれば、オンサイトで便を提供し、寄付あたり25ドルを受け取る。
詳細は下記を参照
https://www.biomebank.com/stool-donation/
対象疾患:再発性クロストリジオデス・ディフィシル感染症(rCDI)
ヨーロッパ
ヨーロッパでも、各国でFMT便バンクの整備が進んでいる。ただ、全体としてアメリカやオーストラリアのような組織だった便バンクの情報はあまり見つけられなかった。
ここでは、2020年にフランスとドイツの研究者らがまとめた論文と、2019年にUEG(United European Gastroenterology )のグループが医療機関付属の便バンクにアンケートを実施してまとめた論文、そして筆者による検索によって情報を集めた。
オランダ
オランダは、アムステルダム大学の研究者らが世界で最初の非常にインパクトのあるFMTのランダム化比較試験を発表した経緯も手伝って、もっとも早くからFMTが普及してきた国のひとつ。
NDFB(Netherlands Donor Feces Bank)
ウェブサイト:https://www.ndfb.nl/
国:オランダ
設立年:2015年
詳細:
レイデン大学医療センターが主体となって設立。
まだ国際的なガイドラインが定まっていない時期から便バンク運営の指針を示し(7)、ヨーロッパのFMT先駆者となった。
ドナー便の処理を含めて、ここで確立された方法が多くの国でFMT標準法として採用されている。
ドナースクリーニング:
候補となったドナーは、いくつかの問診、便検査、血液検査を経て合否が決定される。
合格するのは全候補者の10〜20%程度。
https://www.ndfb.nl/screening.html
報酬はなし。
対象疾患:
原則としてクロストリジオデス・ディフィシル感染症(CDI)
IBDなどその他の疾患の場合は、定められた治験手続きを踏んだあと、提供可能。
イギリス
マイクロバイオーム治療センター(Microbiome Treatment Centre (MTC))
国:イギリス
設立年:2017年
詳細:
Peter Hawkey氏が2014年に設立したPHE Public Health Laboratory Birminghamが発展したもの。
現在はバーミンガム大学に附属する形で、イギリスの法律Medicines and Healthcare products Regulatory Agency (MHRA) を満たすライセンスを持つ国内初の便バンク組織として活動している。
2020年に結果報告の論文を出している。
ドナースクリーニング:
原則として国のガイドラインに従う。
基本的な問診への回答に加えて、便検査、血液検査を含む。
18歳から50歳で、非喫煙者で、ブリストルスケールが2〜5の人が対象。
報酬は、10日寄付ごとに200ポンド。
対象疾患:再発性クロストリジオデス・ディフィシル感染症(rCDI)、または治験
NIHR FMT Trials
ウェブサイト:https://www.fmt-trials.org/
国:イギリス
設立年:2018年
詳細:Guy’s and St Thomas’ NHS Foundation Trust、King’s College Hospital、King’s College Londonによる共同プロジェクト。
2018年にGuy’s and St Thomas’ NHS Foundation TrustのSimon Goldenberg氏が国によるライセンスを取得し、実施を開始した。
ドナースクリーニング:
年齢が18歳から60歳
ロンドン(M25内)に住んでいる
定期的に薬を服用していない(錠剤や注射剤、クリームやローションは許可される)
過去3ヶ月以内に抗生物質を服用していない
長期的な病状がなく、健康である
標準体重(BMIが18~30)
HIVや肝炎を含む様々な病原体のスクリーニングを受ける意思がある
対象疾患:
主な対象はクロストリジオデス・ディフィシル感染症(CDI)だが、潰瘍性大腸炎(UC)にも行われている。
https://www.guysandstthomas.nhs.uk/health-information/faecal-microbiota-transplantation-fmt
Portsmoth Hospitals
ウェブサイト:不明
国:イギリス
設立年:2013
詳細:
2020年に発表された論文には名前があるものの、Webでは情報を見つけられず。
組織名:TML.Science
ウェブサイト:https://tml.science/
国:イギリス
設立年:2011年(FMTの開始が2011年で、設立は2003年)
詳細:イギリスの医薬品・医療製品規制庁(MHRA)の認可を受けた第三者組織。ソーシャルビジネスとしての商業便バンクの形態を採っている。
母体にTaymount Clinicという医療機関があり、いくつかのパートナークリニックとともにFMTを民間サービスとして提供している。
10日間のFMTプログラム:約100万円
5日間のCDI限定プログラム:約50万円
参考:https://taymount.com/fmt-programmes/
ドナースクリーニング:
下記の項目
仕事環境
BMI
ライフスタイル(運動、食事、喫煙、薬物使用、アルコール使用など)
排便の頻度とタイプ(ブリストル便形状スケールに基づく)、および糞便に関連する問題や薬の使用
歯の健康(歯の手術や詰め物を含む)
過去6ヶ月間に受けたタトゥー、ピアス、鍼、針刺し傷
代謝症候群(過体重、高血圧、脂肪肝、糖尿病など)
現在または過去の癌や自己免疫疾患
HIV、梅毒、B型肝炎、C型肝炎、プリオン感染症、神経疾患の健康リスク要因
胃腸の併存症(炎症性腸疾患、過敏性腸症候群、慢性便秘、下痢など)
過去6ヶ月間に受けた輸血
過去2年間に使用した抗生物質
これまでに使用した全身免疫抑制剤
糞便寄付の6ヶ月前以内に受けた生ワクチン
現在または過去に化学療法を受けたことがあるか
精神的健康状態(うつ病やその他の精神疾患、本人や家族の歴史を含む)
血液検査、便検査の詳しい検査項目については下記リンクを参照
https://tml.science/donors
対象疾患:
クロストリジオデス・ディフィシル感染症(CDI)、その他疾患
フランス
Hôpital Saint Antoine AP-HP 糞便移植センター
ウェブサイト:https://saintantoine.aphp.fr/centre-de-transplantation-fecale-de-laphp/
国:フランス
設立年:2014年
詳細:
治験を除くと、再発性クロストリジオデス・ディフィシル感染症(rCDI)のみを対象として実施されている。
2020年にはクローン病に対するランダム化比較試験(10)も行うなど、対象疾患の拡大に精力的である。
YouTubeチャンネルも開設されている。
https://youtube.com/@centredetmfdelap-hp6979?si=Vt90tt5z3Id1wNXk
ドナースクリーニング:不明
対象疾患:
臨床現場では再発性クロストリジオデス・ディフィシル感染症(rCDI)のみ。
その他疾患は治験扱い。
ドイツ
Cologne Stool Bank
ウェブサイト:不明
国:ドイツ
設立年:不明
詳細:Cologne大学病院の所属。Web上で公式サイトなどは見つけられなかったが、複数の論文(5,11,12)でUEG(United European Gastroenterology)のワーキンググループとして名を連ねており、国際基準に則った形でドイツでの院内ドナーバンク事業を実施していると思われる。
ドナースクリーニング:不明
対象疾患:不明
スペイン
Hospital Universitario Ramón y Cajal
ウェブサイト:不明
国:スペイン
設立年:不明
詳細:こちらもドイツと同様。
ドナースクリーニング:不明
対象疾患:不明
イタリア
ジェメリ大学病院消化器病センター
ウェブサイト:なし
国:イタリア
設立年:2018年(?)
詳細:イタリアでは、ジェメリ大学病院消化器病センターのGianluca Ianiro氏らを中心にFMT研究が盛んな国のひとつだ。彼は主要な国際ガイドラインの策定に携わるなど、ヨーロッパでのFMTを積極的に勧めている人物の一人と言っていい。
公式の便バンクウェブサイトはないものの、ドナーバンク運営の報告をまとめた論文を出している。
ドナースクリーニング:
かなり厳格に行っている。通常の問診、血液検査、便検査、追加の問診に加え、提供されたすべての便において検査を実施していた期間もあり、コストは高いと思われる。
対象疾患:不明
この他、オーストラリア、デンマーク、フィンランド、ブルガリアにも便バンクがあり、ヨーロッパでは大学病院が中心となって便バンクを運営するスタイルが主流のようだ。
日本
Japanbiome®(一般財団法人腸内フローラ移植臨床研究会に所属)
ウェブサイト:https://fmt-japan.org/technical-features/japanbiome
国:日本
設立年:2017年11月(一般財団法人腸内フローラ移植臨床研究会に準ずる)
詳細:非営利組織である一般財団法人腸内フローラ移植臨床研究会に所属し、会員医師らによるドナー選定を行っている。
実際の運営はシンバイオシス株式会社に委託し、当社が移植菌液の作製などを行っているため、イギリスのTML. Science同様、ソーシャルビジネスとしての商業便バンクの形態を採っている。
実際にFMTを受けるためには、提携医療機関を受診する必要がある。
2023年に自閉スペクトラム症を対象とした特定臨床研究を実施し、現在論文投稿準備中。
ドナースクリーニング:
現在、不特定多数からの新規のドナー募集は行っていない。
<問診票>
年齢、性別、身長、体重、抗生物質使用歴、自然分娩/母乳育児、既往歴、薬やサプリメントの使用状況、渡航歴、食習慣、睡眠習慣、等々
<医師による診察>
血圧、脈拍、聴診、尿検査
<血液検査、便検査>
詳細は以下を参照。
https://fmt-japan.org/technical-features/japanbiome
対象疾患:
特別な制限はなし。ただし、主治医が適応と認めない場合を除く。
J-Kinsoバンク(メタジェンセラピューティクス株式会社に所属)
ウェブサイト:https://www.metagentx.com/microbiome-bank/
国:日本
設立年:2024年4月
詳細:
「腸内細菌を用いた医療技術および医薬品の研究開発への活用を目的とした腸内細菌叢バンク」としては日本初を掲げる便バンク。
順天堂大学と共同でさまざまな取組みを行っており、当ドナー便バンクで集めた便も、順天堂大学における臨床研究などに活用される。
2024年8月9日、国立研究開発法人国立がん研究センター、学校法人順天堂 順天堂大学、メタジェンセラピューティクス株式会社が共同で新たな臨床試験の開始を発表した。
食道がん・胃がん患者さんを対象とした「腸内細菌叢移植」の臨床試験を開始~免疫チェックポイント阻害薬と腸内細菌叢移植併用療法の安全性と有効性を検討~
ドナースクリーニング:
18歳以上65歳以下の日本国内在住で、健康な人
※除外項目
https://d1p0jrn7ed6hqy.cloudfront.net/web-questionnaire.pdf
特定の医療機関で 「血液検査」「腸内細菌叢検査」「唾液検査」と問診による厳格な適格性検査を受ける場合がある。
対象疾患:
不明
※以下は、便バンクではなく先進医療等としてFMTを提供しているいくつかの大学病院を列挙する。
・ ・ ・
組織名:滋賀医科大学医学部消化器内科(他3施設)
ウェブサイト:https://www.senshiniryo.net/repo/37/index.html
特徴:2020年3月に先進医療として藤田医科大学、順天堂大学、金沢大学と共同で臨床研究を開始。
ドナースクリーニング:患者が自分で確保する必要がある。
対象疾患:クロストリジオイデス・ディフィシル関連下痢症・腸炎
費用:滋賀医科大学でこの先進医療を受ける場合、患者の費用負担は以下の通りです(施設ごとに費用は変わります)。
● 初回糞便微生物叢移植:131,300 円(糞便微生物叢移植の実施費用+ドナーのスクリーニング費用+患者のスクリーニング・解析費用+初診時の人件費)
● ドナー不適格によるドナー変更の場合、ドナーのスクリーニング費用追加:79,600 円(ドナーのスクリーニング費用)
● 2 回目の糞便微生物叢移植(同一ドナー):9,200 円(糞便微生物叢移植の実施費用)
● 2 回目の糞便微生物叢移植(ドナー変更):93,800 円(糞便微生物叢移植の実施費用+ドナースクリーニング費用+初診時の人件費)
上記に加えて、保険診療の範囲で行われる診察・検査・投薬の費用が別途必要となります。また、ドナーの方は糞便移植実施前日に新型コロナウイルス感染症の PCR 検査を受けます。このPCR 検査費用(16,995 円)も患者にご負担いただきます(ドナーの方は費用負担なし)。
https://www.senshiniryo.net/repo/37/index.html
・ ・ ・
組織名:順天堂大学医学部附属順天堂医院(他3施設)
特徴:2023年1月より、先進医療Bとして潰瘍性大腸炎(UC)患者を対象に臨床研究を開始。
金沢大学付属病院(石川県)、順天堂大学医学部附属静岡病院(静岡県)、滋賀医科大学医学部附属病院(滋賀県)でも受診が可能である。
抗菌薬を併用して患者の腸内細菌を一旦「リセット」する方法が特徴的。
ドナースクリーニング:
18歳以上の健康な人
便、血液、唾液の検査を実施して合否を決定
現在、Webからドナー募集は実施していない。
対象疾患:潰瘍性大腸炎(UC)※細かい参加基準あり
基本的な考え方
糞便微生物叢移植(FMT)の安全性に関する国内外の状況
米国食品医薬品局(FDA)は、安全性確保のために、FMT を用いる臨床試験を実施する場合には、治験薬(Investigative new drug; IND)申請に基づいた臨床開発を実施することを求めています。 日本でも2020 年よりClostridioides difficile 感染症に対する先進医療Bでの保険適用の可否を検討するための単群検証的試験が進められています。 その他の国においてもFMTへの規制に関する議論が始まっています。
FMTによる重大な有害事象は、独立行政法人医薬品医療機器総合機構からの「マイクロバイオーム研究に基づいた細菌製剤に関する報告書」に取り上げられています。以下は、それに基づいて記載しました。
国内では、重大な有害事象は報告されていませんが、米国では2019 年に2 名(1 名死亡・1 名回復)の重大な有害事象が報告されています。
2019年3月にマサチューセッツ総合病院(MGH)で、院内において作製された同一ドナー由来のFMT 経口カプセルを投与された2 名の患者がESBL(Extended spectrumβ-lactamases)産生菌に感染しました。 1 名はC 型肝炎による肝性脳症治療の目的でFMT が実施されましたが、ESBL産生菌感染が発覚、抗菌薬治療により回復しました。 もう1名は骨髄異形成症候群の治療のため造血幹細胞移植を受ける患者(シクロホスファミドとミコフェノール酸モフェチル投与後)において、移植片対宿主病(graft-versus-host disease;GVHD)の予防の目的でFMT が実施されましたが、造血幹細胞移植後にESBL 産生菌感染が発覚し重度の敗血症により死亡しました。FDA は速やかにアラートを発し、全国でFMTの提供を停止させました。
原因究明が行われた結果、MGH ではFDA ガイドラインで求められているESBL 検査を行っておらず、ドナー便がESBL 産生菌に汚染されていたことが判明したため、アラート後3 ヶ月でESBL検査を徹底する勧告を出してFMT を用いたIND 試験が再開されています。
さらに、2020年には、6名(全員回復)の重大な有害事象が報告されています。FDAは、本事象を、ドナー便に基因する腸管病原性大腸菌と志賀毒素産生性大腸菌による有害事象として、アラートを発しています。
このように、FMT の安全性に関して最も配慮すべき点は、重篤な感染症をもたらす可能性があることです。例えばCOVID-19 は、便中からウイルスが検出されたことから、感染の原因になりうることがパンデミックの早い段階で指摘されていました。FDA は2020 年3 月に安全性アラートを発し、2019 年12 月1 日以降に取得した便を用いたFMT 便ジュースの提供に際し、COVID-19 の感染防止対策(ドナーの感染検査とレシピエントの追加合意取得)を要請しました。
FDAがFMT に関するレビューの中で提案している配慮すべき感染症の検査として、病原性細菌、真菌、ウイルス、寄生虫などの検査がありますが、わが国ではE 型肝炎ウイルスなども考慮する必要があるとされています。
糞便微生物叢移植(FMT)の有用性と国内外の経緯
糞便微生物叢移植は、現在国内外の各機関で研究が行われ、潰瘍性大腸炎、過敏性腸症候群で一定の効果が認められています。ただし日本においては未だ臨床研究法の対象になっていないため、最終的な評価は出ておらず全額自己負担診療となっています。
これまでのFMTの有用性に関する国内外の経緯を下記にまとめています。新しい情報については当サイトのブログで適宜発信していく予定です。
糞便微生物叢移植のもっとも古い起源は4世紀頃の中国で、下痢が止まらずに悩んでいた人のお尻に健康な人の便を入れたところ下痢が治ったことが最初の治療例だと言われています。それから時は下り、1958年の偽膜性腸炎に関する報告を皮切りに、欧米諸国では糞便微生物叢移植の研究が進んできました。
糞便微生物叢移植が再び注目を浴びたのは、2013年のオランダの研究で、クロストリジウム・ディフィシル感染症(CDI)に対する治療効果がきっかけでした。CDIとは、外科手術等で抗生物質を大量に使用することにより、抗生物質に耐性を持ったクロストリジウム・ディフィシル菌のみが異常繁殖してしまい、本来は何千種類もいるはずの腸内細菌叢の多様性が失われ、最悪の場合は命に関わるとされる疾患です。アメリカでは毎年50万人以上がこの疾患に罹患し、毎年3万人が命を落としています。
その翌年の2014年にアメリカ食品医薬品局(FDA)は「CDIの多剤耐性時に、糞便微生物叢移植が第一に選択すべき治療法である」と位置づけ、医学的にもその有効性が証明されつつあります。
一方で2019年には同FDAから、移植実施時に適切なスクリーニングを行なわず致死的な菌を移植し死者を出した事例について「糞便微生物叢移植には深刻な感染リスクが潜んでいる可能性がある」と警告が出されました。
2021年現在、糞便微生物叢移植は同FDAの執行裁量の方針の下に存在し、CDI治療に使用できるようになっています。しかしながら、確かな菌液の提供と説明責任を果たせる専門病院の選択なくしては、糞便微生物叢移植という新しい治療法の効果を得ることは難しいと言えるでしょう。
日本における糞便微生物叢移植の研究は、2013年に各地の大学病院など8施設において、潰瘍性大腸炎とクローン病に特化した臨床治験が始まり(2016年に第一相が終了)炎症性腸疾患に対する効果が順次発表され始めているところです。
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