論文

【関連論文】腸内細菌・FMT研究まとめ(2025.2.21)

目次

・視覚および嗅覚信号がマウスにおける情動伝染を誘発する

・潰瘍性大腸炎における糞便シデロフォア遺伝子の非侵襲的バイオマーカーとしての可能性

・活動性潰瘍性大腸炎における糞便微生物叢移植の有効性予測におけるシデロフォア遺伝子の役割

・中国における重症乳児ボツリヌス症に対する糞便微生物叢移植

・炎症性腸疾患を有する成人における抗炎症性食事パターンが疾患活動性、症状、および腸内細菌叢に与える影響に関するパイロットランダム化比較試験

・甘味を加えたカフェイン摂取がオスのマウスにおける行動リズムと中枢概日時計に与える影響

・high-throughput electrochemistryを用いた低代謝維持状態の細菌におけるメカニズム研究

・胃癌の発症における胃内細菌叢と臨床的意義

・パーキンソン病治療薬エンタカポンによる腸内細菌叢の鉄キレート作用を介した恒常性の破壊

・Clostridioides difficile 感染症における糞便微生物叢移植治療失敗の要因

・抗生物質による腸内細菌叢の撹乱とプロバイオティクスの役割

・炎症性腸疾患における主要な腸内細菌の欠如が胆汁酸代謝の異常を予測する

・チーターにおける腸内細菌叢の抗生物質後の回復を促進する糞便微生物叢移植(FMT)

・潰瘍性大腸炎患者における糞便微生物叢および糞便濾過液移植後の細菌およびウイルス集団の変化

視覚および嗅覚信号がマウスにおける情動伝染を誘発する

(タイトル)Visual and olfactory signals of conspecifics induce emotional contagion in mice

(タイトル訳)視覚および嗅覚信号がマウスにおける情動伝染を誘発する

(概要)麻布大学大学院・獣医学研究科の中村月香修士課程学生(研究当時、現在:東京農工大学/国立精神・神経医療研究センター博士課程学生)、同大学獣医学部・介在動物学研究室の菊水健史教授、国立遺伝学研究所・マウス開発研究室の小出剛准教授らは、日本産野生由来のマウス系統(MSM/Ms)を用いて、他者の情動を検知する「情動伝染」という機能には嗅覚情報だけではなく視覚情報が不可欠であることを明らかにしました。「情動伝染」とは、ある個体の情動が別の個体へと伝染する現象のことです。これは、共感性の最も核となる現象であると考えられており、ヒトのみならず、マウスやイヌなど多くの動物種で観察されています。

(著者)Madoka Nakamura, Kensaku Nomoto, Kazutaka Mogi, Tsuyoshi Koide, Takefumi Kikusui

(雑誌名・出版社名)Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences

(出版日時)2024年12月11日

DOI:https://doi.org/10.1098/rspb.2024.1815

URL:https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rspb.2024.1815

プレスリリース↓

マウスの情動伝染には「嗅覚」に加えて「視覚」が重要である

https://www.nig.ac.jp/nig/ja/2024/12/research-highlights_ja/rh20241211.html

潰瘍性大腸炎における糞便シデロフォア遺伝子の非侵襲的バイオマーカーとしての可能性

[Clinical Observation]

(タイトル) Fecal siderophore genes are potential biomarkers for ulcerative colitis

(タイトル訳) 潰瘍性大腸炎における糞便シデロフォア遺伝子の非侵襲的バイオマーカーとしての可能性

(概要)潰瘍性大腸炎(UC)とクローン病(CD)は慢性炎症性腸疾患(IBD)であり、その発症には腸内細菌叢の不均衡が関与していると考えられている。本研究では糞便中のシデロフォア遺伝子の存在率およびコピー数を調査し、それらがUCの診断および活動性評価に有用なバイオマーカーとなり得るかを検討している。166人のUC患者と168人の健常対照者を対象に、PCRと定量的リアルタイムPCRを用いて分析した結果、UC患者ではシデロフォア遺伝子のコピー数が有意に高いことが判明した。また、UCの活動性が高いほどコピー数が増加し、特に重度活動期において顕著でした。この研究は、UCの非侵襲的診断および疾患活動性のモニタリングにおける新しい指標として、糞便シデロフォア遺伝子の可能性を示している。

(著者)Jingshuang Yan, Rongrong Ren, Zhengpeng Li, Wanyue Dan, Xinyi Ma, Xiaohan Zhang, Xiaoyan Chi, Lihua Peng, Yunsheng Yang

(所属)School of Medicine, Nankai University, Tianjin, China

Department of Gastroenterology and Hepatology, The First Medical Center, Chinese People’s Liberation Army General Hospital, Beijing, China

(雑誌名・出版社名)Chinese Medical Journal

(出版日時)2024年12月23日

DOI:https://doi.org/10.1097/CM9.0000000000003424

URL:https://journals.lww.com/cmj/fulltext/9900/fecal_siderophore_genes_are_potential_biomarkers.1372.aspx

活動性潰瘍性大腸炎における糞便微生物叢移植の有効性予測におけるシデロフォア遺伝子の役割

(タイトル) Siderophore-harboring gut bacteria and fecal siderophore genes for predicting the responsiveness of fecal microbiota transplantation for active ulcerative colitis

(タイトル訳) 活動性潰瘍性大腸炎における糞便微生物叢移植の有効性予測におけるシデロフォア遺伝子の役割

(概要)活動性潰瘍性大腸炎(UC)患者における糞便微生物叢移植(FMT)の結果を予測するマーカーは明確ではない。本研究では、FMT前後の腸内細菌叢の変化を調査し、FMTの応答性を予測する上で糞便中シデロフォア遺伝子コピー数の潜在的価値を評価している。活動性UC(Mayoスコア≥3)の患者70名が対象となり、FMT実施前と実施後8週目の糞便サンプルを収集し、メタゲノム解析およびリアルタイムPCRにより解析を行っている。FMT後、応答群ではFaecalibacteriumの増加およびEnterobacteriaceaeの減少が観察され、糞便シデロフォア遺伝子の総コピー数が有意に低下した。ベースライン時のシデロフォア遺伝子コピー数が高い患者はFMTの応答性が高いことが示された。これらの結果は、FMT応答性予測のための新たなバイオマーカーとしてシデロフォア遺伝子およびそれをコードする細菌が有望であることを示唆している。

(著者)Jingshuang Yan, Guanzhou Zhou, Rongrong Ren, Xiaohan Zhang, Nana Zhang, Zikai Wang, Lihua Peng, Yunsheng Yang

(所属)School of Medicine, Nankai University, Tianjin, China

Microbiota Laboratory and Microbiota Division, Department of Gastroenterology and Hepatology, the First Medical Center, Chinese PLA General Hospital, Beijing, China

National Clinical Research Center for Geriatric Diseases, Chinese PLA General Hospital, Beijing, China

(雑誌名・出版社名)Journal of Translational Medicine

(出版日時)2024年6月24日

DOI:https://doi.org/10.1186/s12967-024-05419-w

URL:https://translational-medicine.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12967-024-05419-w

中国における重症乳児ボツリヌス症に対する糞便微生物叢移植

[Research Letter]

(タイトル) Fecal Microbiota Transplantation for Severe Infant Botulism, China

(タイトル訳) 中国における重症乳児ボツリヌス症に対する糞便微生物叢移植

(概要)乳児ボツリヌス症は、Clostridium botulinumの芽胞摂取により引き起こされる疾患で、左右対称の下降性麻痺を特徴として重症の場合は呼吸不全を引き起こす。本研究では抗毒素療法後も毒素を排泄し続けた4か月齢の乳児に糞便微生物叢移植(FMT)で治療を行っている。FMT後、腸内細菌叢の多様性が増加し、腸内pHを低下させる代謝物の変化が確認されましたが、これが毒素排泄の停止に直接関連しているかは不明である。FMTが乳児ボツリヌス症患者の治療に有効である可能性を示唆しているが、さらなる検証が必要です。

(著者)Chaonan Fan, Rubo Li, Lijuan Wang, Kechun Li, Xinlei Jia, Hengmiao Gao, Bike Zhang, Xuefang Xu, Suyun Qian

(所属)Beijing Children’s Hospital, Capital Medical University, National Center for Children’s Health, Beijing, China

National Key Laboratory of Intelligent Tracking and Forecasting for Infectious Diseases, Center for Disease Control and Prevention, Beijing, China

(雑誌名・出版社名)Emerging Infectious Diseases

(出版日時)2024年7月10日

DOI:10.3201/eid3008.231702

URL:https://wwwnc.cdc.gov/eid/article/30/8/23-1702_article

炎症性腸疾患を有する成人における抗炎症性食事パターンが疾患活動性、症状、および腸内細菌叢に与える影響に関するパイロットランダム化比較試験

(タイトル) A Pilot Randomized Controlled Trial Investigating the Effects of an Anti-Inflammatory Dietary Pattern on Disease Activity, Symptoms, and Microbiota Profile in Adults with Inflammatory Bowel Disease

(タイトル訳) 炎症性腸疾患を有する成人における抗炎症性食事パターンが疾患活動性、症状、および腸内細菌叢に与える影響に関するパイロットランダム化比較試験

(概要)本研究では炎症性腸疾患(IBD)の患者を対象に、食品添加物の摂取を低減するよう設計された修正抗炎症食(IBD-MAID)の安全性、効果、および実現可能性を検討している。結果として、IBD-MAIDを遵守することで、症状の改善、生活の質(S&QOL)の向上、炎症マーカーの低下が見られた。一方で、腸内細菌叢の構成や多様性には有意な変化が認められませんでした。IBD-MAIDの忍容性は良好であった。最も新しい知見は、食品添加物の摂取量減少と炎症マーカー、S&QOLの改善との相関に関するものである。食品添加物の摂取がIBDの経過に及ぼす影響については、さらなる研究が必要である。

(著者)Abigail Marsh, Veronique Chachay, Merrilyn Banks, Satomi Okano, Gunter Hartel, Graham Radford-Smith

(所属)The University of Queensland, St Lucia, QLD, Australia

Royal Brisbane and Women’s Hospital, Herston, QLD, Australia

QIMR Berghofer Medical Research Institute, Herston, QLD, Australia

(雑誌名・出版社名)European Journal of Clinical Nutrition

(出版日時)2024年8月10日

DOI:https://doi.org/10.1038/s41430-024-01487-9

URL:https://www.nature.com/articles/s41430-024-01487-9

今回の研究で腸内細菌叢プロファイルに効果がみられなかったのは、腸内細菌叢組成の有意な変化を評価するための検出力が十分でなかったことと、研究集団(UCとCDの参加者を含む)の異質性が大きかったためかもしれない。

甘味を加えたカフェイン摂取がオスのマウスにおける行動リズムと中枢概日時計に与える影響

(タイトル) Sweetened caffeine drinking revealed behavioral rhythm independent of the central circadian clock in male mice

(タイトル訳) 甘味を加えたカフェイン摂取がオスのマウスにおける行動リズムと中枢概日時計とは無関係のリズム形成を示す

(概要)広島大学大学院医系科学研究科の田原優准教授、丁靖葦大学院生、柴田重信特命教授らは、甘味カフェイン水の自由飲水投与により、普段夜行性のマウスが昼行性になるくらい、体内時計が大きく遅れてしまうことを発見しました。

(著者)Yu Tahara, Jingwei Ding, Akito Ito, Shigenobu Shibata

(所属)Hiroshima University, Graduate School of Biomedical and Health Sciences, Hiroshima, Japan

Waseda University, School of Advanced Science and Engineering, Tokyo, Japan

(雑誌名・出版社名)npj Science of Food

(出版日時)2024年8月19日

DOI:https://doi.org/10.1038/s41538-024-00295-6

URL:https://www.nature.com/articles/s41538-024-00295-6

プレスリリース↓

甘味カフェイン飲水によるマウス体内時計と活動リズムの変化〜甘味カフェイン飲料の摂り過ぎで昼夜逆転?!〜

https://www.hiroshima-u.ac.jp/news/84871

high-throughput electrochemistryを用いた低代謝維持状態の細菌におけるメカニズム研究

(タイトル) Mechanistic study of a low-power bacterial maintenance state using high-throughput electrochemistry

(タイトル訳) high-throughput electrochemistryを用いた低代謝維持状態の細菌におけるメカニズム研究

(概要)NIMS とカリフォルニア工科大学からなる研究チームは、「冬眠状態」にある細菌(バクテリア)の非常にゆっくりとした代謝を効率的に測定するための新しい技術「96 連ポテンショスタット」を開発しました。冬眠状態の細菌は、例えば、治療が難しい慢性的な肺感染症の原因となっていますが、その生存メカニズムは長年の謎でした。本技術を使うことにより、細菌がゆっくりとした代謝を維持する仕組みを詳しく調べられるようになり、現状では難しい感染症の治療への新しい道がひらかれることが期待されます。

(著者)John A. Ciemniecki, Chia-Lun Ho, Richard D. Horak, Akihiro Okamoto, Dianne K. Newman

(所属)

Division of Biology & Biological Engineering, California Institute of Technology, Pasadena, CA, USA

Research Center for Macromolecules and Biomaterials, National Institute for Materials Science, Tsukuba, Japan

and numerous other research institutions.

(雑誌名・出版社名)Cell

(出版日時)2024年10月23日

DOI:10.1016/j.cell.2024.09.042

URL:https://www.cell.com/cell/abstract/S0092-8674(24)01142-5?_returnURL=https://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S0092867424011425?showall=true

プレスリリース↓

増殖しない「冬眠状態」のバクテリアを調べる新しい技術

~低エネルギー状態の病原細菌を理解し、難治性感染症の新しい治療法の開発へ~

https://www.nims.go.jp/press/2024/11/202411150.html

胃癌の発症における胃内細菌叢と臨床的意義

(タイトル) Stomach Microbiota in Gastric Cancer Development and Clinical Implications

(タイトル訳) 胃癌の発症における胃内細菌叢と臨床的意義

(概要)胃癌(GC)は世界的に見て最も一般的な悪性腫瘍の一つであり、癌関連死亡の主要因です。GCの特徴的な側面の一つは共生微生物群との密接な関連です。Helicobacter pyloriが胃癌発症の引き金として広く認識されているが、胃粘膜に存在する他の微生物が病態進行中に重要な役割を果たすことが増加する証拠で示されている。特に、胃内細菌叢の調節不全が前癌病変の形成から胃癌への進行まで発癌過程全体で重要な役割を果たす可能性がある。本研究ではGC発症における胃内細菌叢の現在の理解を概説し、胃内細菌を診断、治療、予後に応用する可能性と臨床的意義を評価している。また、現在の概念的あいまいさや制限についても議論している。最後に、微生物の調節がGC予防および治療のための新たで有望なフロンティアであることを強調し、さらなる詳細な研究の必要性を指摘している。

(著者)Ruijie Zeng, Hongyan Gou, Harry Cheuk Hay Lau, Jun Yu

(所属)Institute of Digestive Disease, Department of Medicine and Therapeutics, The Chinese University of Hong Kong, Hong Kong, China

(雑誌名・出版社名)Gut

(出版日時)2024年11月11日

DOI:https://doi.org/10.1136/gutjnl-2024-332815

URL:https://gut.bmj.com/content/73/12/2062

GCの診断と予後は口腔内、胃粘膜、腸内細菌叢を利用して開発されたシグネチャーによって補助することができ、H. pylori以外の病原微生物(Streptococcus anginosusやEpstein-Barr virus)や短鎖脂肪酸産生菌の治療効果増強および副作用軽減効果が示唆されており、GCの予防と治療における微生物介入の可能性が強調されている。

パーキンソン病治療薬エンタカポンによる腸内細菌叢の鉄キレート作用を介した恒常性の破壊

(タイトル) The Parkinson’s disease drug entacapone disrupts gut microbiome homeostasis via iron sequestration

(タイトル訳) パーキンソン病治療薬エンタカポンによる腸内細菌叢の鉄キレート作用を介した恒常性の破壊

(概要)ヒトを対象とした薬剤は腸内細菌叢に影響を与えることが知られており、これが宿主の健康に及ぼす影響のメカニズムは十分に解明されていない。本研究では、パーキンソン病治療薬エンタカポン(Entacapone)および統合失調症治療薬ロキサピンが腸内細菌叢に及ぼす影響を調査している。エンタカポンは腸内での鉄キレート作用を通じて細菌の成長と代謝活動を阻害し、特に鉄の欠乏を誘発することで細菌叢の構成と機能を変化させた。一方で、鉄補充によりこれらの影響を逆転できることが示された。これらの結果は、エンタカポンの鉄制限効果が腸内細菌叢の変化を引き起こす主要因であることを示唆している。

(著者)Fátima C. Pereira, Xiaowei Ge, Jannie M. Kristensen et al.

(所属)Centre for Microbiology and Environmental Systems Science, Department of Microbiology and Ecosystem Science, University of Vienna, Vienna, Austria. f.c.pereira@soton.ac.uk.

School of Biological Sciences, University of Southampton, Southampton, UK. f.c.pereira@soton.ac.uk.

Department of Electrical and Computer Engineering, Boston University, Boston, MA, USA.

Centre for Microbiology and Environmental Systems Science, Department of Microbiology and Ecosystem Science, University of Vienna, Vienna, Austria.

and numerous other research institutions.

(雑誌名・出版社名)Nature Microbiology

(出版日時)2024年11月21日

DOI:https://doi.org/10.1038/s41564-024-01853-0

URL:https://www.nature.com/articles/s41564-024-01853-0

Clostridioides difficile 感染症における糞便微生物叢移植治療失敗の要因

(タイトル) Factors for Treatment Failure After Fecal Microbiota Transplantation in Clostridioides difficile Infection

(タイトル訳) Clostridioides difficile 感染症における糞便微生物叢移植治療失敗の要因

(概要)糞便微生物叢移植(FMT)は、再発性および難治性のClostridioides difficile 感染症(CDI)に対して効果的な治療法として注目されていますが、治療失敗のリスク要因は十分に解明されていません。本研究ではFMT後の治療失敗や再発のリスク要因を調査している。多変量解析の結果、FMT前後の非CDI抗生物質の使用は治療失敗のリスクを有意に増加させ、特に長期使用はリスクを大幅に増加させることが明らかになった。この関連はFMT治療の成功率を向上させるための抗生物質管理の重要性を強調している。

(著者)Soo-Hyun Park, Jung-Hwan Lee, Suhjoon Lee, Jongbeom Shin, Boram Cha, Ji-Taek Hong, Kye Sook Kwon

(所属)Soon Chun Hyang University Hospital, Seoul, Republic of Korea

Inha University Hospital, Inha University School of Medicine, Incheon, Republic of Korea

(雑誌名・出版社名)Microorganisms

(出版日時)2024年12月9日

DOI:https://doi.org/10.3390/microorganisms12122539

URL:https://www.mdpi.com/2076-2607/12/12/2539

抗生物質による腸内細菌叢の撹乱とプロバイオティクスの役割

[Review Article]

(タイトル) Antibiotic-perturbed Microbiota and the Role of Probiotics

(タイトル訳) 抗生物質による腸内細菌叢の撹乱とプロバイオティクスの役割

(概要)抗生物質がヒトの腸内細菌叢の構成と機能に与える影響は広く認識されている。本レビューでは抗生物質使用後の腸内細菌叢の撹乱をプロバイオティクスが修復するという仮説について、これを支持するエビデンスの強さが十分に考慮されていない点を指摘している。一部の臨床データでは、プロバイオティクスが抗生物質関連の副作用、特にClostridioides difficile関連下痢のリスクを低減する可能性が示唆されていますが、これらの臨床効果が細菌叢の保護または回復に因果的に関連しているというデータはありません。現在のエビデンスは、プロバイオティクスが微生物叢を抗生物質投与前の状態に回復させるという考え方を支持していない。限られたデータではあるが、ある特定のプロバイオティクス製剤が抗生物質によって乱された微生物叢の回復を遅延させることが示されている。

(著者)Hania Szajewska, Karen P. Scott, Mary Ellen Sanders

(雑誌名・出版社名)Nature Reviews Gastroenterology & Hepatology

(出版日時)2024年12月11日

DOI:https://doi.org/10.1038/s41575-024-01023-x

URL:https://www.nature.com/articles/s41575-024-01023-x

炎症性腸疾患における主要な腸内細菌の欠如が胆汁酸代謝の異常を予測する

(タイトル) Depletion of Key Gut Bacteria Predicts Disrupted Bile Acid Metabolism in Inflammatory Bowel Disease

(タイトル訳) 炎症性腸疾患における主要な腸内細菌の欠如が胆汁酸代謝の異常を予測する

(概要)腸内細菌叢は胆汁酸(BA)代謝において重要な役割を果たし、その代謝産物の多様性は健康と疾患に寄与する。特に、炎症性腸疾患(IBD)は二次胆汁酸(SBA)の低濃度と関連しており、これは腸内細菌が一次胆汁酸(PBA)を変換する能力の低下によるものであるとされている。本研究ではIBD患者と健常者から採取した多数の便サンプルを対象に、メタゲノムおよびメタボロームデータを解析している。その結果、メタゲノム中の胆汁酸誘導(bai)オペロンの存在量がSBA代謝状態の良否を予測する上で重要であることが判明した。また、baiオペロンを持つ細菌の分布が、IBD患者と非IBD対照群で異なることが示された。特に、IBD患者にはよく知られたClostridiumが多く見られ、非IBD群では未特定の腸内細菌(MAGsとしてのみ知られる)が重要な代謝活性を担っていることが明らかになった。さらに、FMT(糞便微生物移植)後のIBD患者においてこれらの未特定の細菌が定着し、臨床的改善が観察されたケースも確認された。

(著者)Daniel Peterson, Christopher Weidenmaier, Sonia Timberlake, Rotem Gura Sadovsky

(所属)Finch Therapeutics, Somerville, Massachusetts, USA.

(雑誌名・出版社名)Microbiology Spectrum

(出版日時)2024年12月13日

DOI:https://doi.org/10.1128/spectrum.01999-24

URL:https://journals.asm.org/doi/10.1128/spectrum.01999-24  

2024年の炎症性腸疾患:生物学的製剤の進化と宿主–微生物相互作用の新たな展開

[Year in Review]

(タイトル) IBD in 2024: Biologic Agents for IBD Come of Age as Host–Microbe Interactions Emerge

(タイトル訳) 2024年の炎症性腸疾患:生物学的製剤の進化と宿主–微生物相互作用の新たな展開

(概要)2024年、炎症性腸疾患(IBD)の研究において大きな進展がありました。特に、IBD治療における生物学的製剤の戦略が成熟し、腸内細菌叢、バクテリオファージ、宿主の相互作用が新たな治療ターゲットとして注目されている。PROFILE試験ではインフリキシマブと免疫調整薬のトップダウン療法が中等度から重度のクローン病に対して従来のaccelerated step-up療法よりも優れていることが示された。SEQUENCE試験ではリサンキズマブがウステキヌマブに対して非劣性であること、特に24週目の臨床的寛解誘導および48週目の内視鏡的寛解では優越性を示しました。健康な状態ではBacteroides fragilis polysaccharide A promoterは「ON」の状態となり、制御性T細胞(Treg)への免疫調整効果を高めるが、実験的大腸炎モデルでは腸内細菌叢の多様性が低下し、バクテリオファージの影響が増加することでこの効果が失われる。

(著者)Leolin Katsidzira, Benjamin Misselwitz

(所属)Department of Medicine, Faculty of Medicine and Health Sciences, University of Zimbabwe, Harare, Zimbabwe

Medizinische Klinik und Poliklinik 2, LMU University Munich, Munich, Germany

(雑誌名・出版社名)Nature Reviews Gastroenterology & Hepatology

(出版日時)2024年12月13日

DOI:https://doi.org/10.1038/s41575-024-01029-5

URL:https://www.nature.com/articles/s41575-024-01029-5

チーターにおける腸内細菌叢の抗生物質後の回復を促進する糞便微生物叢移植(FMT)

(タイトル) Fecal microbiota transplants facilitate post-antibiotic recovery of gut microbiota in cheetahs (Acinonyx jubatus)

(タイトル訳) チーターにおける抗生物質後の腸内細菌叢回復を促進する糞便微生物叢移植(FMT)

(概要)糞便微生物移植(FMT)は、多様な宿主種において腸内細菌叢の回復や病原菌の排除を目的とする治療法として注目されている。本研究では、飼育下のチーター21頭を対象に、自家FMTが抗生物質投与後の腸内細菌叢の回復を促進するかを検証している。抗生物質は豊富な細菌群を消失させたが、FMTによりタンパク質消化や酪酸生成を助ける細菌(例:Fusobacterium)が腸内に定着し、腸内細菌叢の多様性および組成が回復した。特に複数回のFMTは、単回のFMTよりも持続的な回復を促進した。これらの結果は、FMTがチーターを含む非モデル生物における腸内細菌叢を標的とした治療として有望であることを示唆している。

(著者)Sally L. Bornbusch, Adrienne Crosier, Lindsey Gentry, Kristina M. Delaski, Michael Maslanka, Carly R. Muletz-Wolz

(所属)Smithsonian’s National Zoo and Conservation Biology Institution, Washington, DC, USA

Department of Nutrition Science, Smithsonian’s National Zoo, Washington, DC, USA

and numerous other research institutions.

(雑誌名・出版社名)Communications Biology

(出版日時)2024年12月23日

DOI:https://doi.org/10.1038/s42003-024-07361-5

URL:https://www.nature.com/articles/s42003-024-07361-5

潰瘍性大腸炎患者における糞便微生物叢および糞便濾過液移植後の細菌およびウイルス集団の変化

(タイトル) Bacterial and viral assemblages in ulcerative colitis patients following fecal microbiota and fecal filtrate transfer

(タイトル訳) 潰瘍性大腸炎患者における糞便微生物叢および糞便濾過液移植後の細菌およびウイルス集団の変化

(概要)糞便微生物濾過液移植(FMT-filtrate)は、潰瘍性大腸炎の治療において糞便微生物叢移植(FMT)に代わる安全な方法として議論されている。本研究では活動性潰瘍性大腸炎患者6名(うち3名で濾過液移植後に臨床的改善を確認)を対象に、糞便濾過液移植および糞便微生物叢移植による細菌およびウイルスの組成変化を調査している。FMT-filtrateではヴァイロームの再構成が見られた一方、FMTではドナー由来の細菌およびウイルス(バクテリオファージ)の定着が確認された。

(著者)Howard Junca, Arndt Steube, Simon Mrowietz, Johannes Stallhofer, Marius Vital, Luiz Gustavo dos Anjos Borges, Dietmar H. Pieper, Andreas Stallmach

(所属)Microbial Interactions and Processes Research Group Helmholtz Centre for Infection Research,Braunschweig,Germany

Department of Internal Medicine IV (Gastroenterology, Hepatology and Infectious Diseases) University Hospital Jena, Jena, Germany

and numerous other research institutions.

(雑誌名・出版社名)ISME Communications

(出版日時)2024年12月23日

DOI:https://doi.org/10.1093/ismeco/ycae167

URL:https://academic.oup.com/ismecommun/advance-article/doi/10.1093/ismeco/ycae167/7931473

Articles about other 論文

2025年11月10日

【関連論文】腸内細菌・FMT研究まとめ(2025.11.10)

目次 ・日本女性におけるラーメン摂取と腸内細菌叢の多様性:NEXISコホート研究からの横断的データ   ・肝硬変の進行に伴う腸粘膜ミトコンドリア酸化リン酸化の悪化と便微生物移植による改善  […]

2025年11月04日

【関連論文】腸内細菌・FMT研究まとめ(2025.11.4)

<目次> ・ヒト微生物叢の消失がもたらす結果とは何か? ・寛解期潰瘍性大腸炎患者における臨床的再発に関連する腸内細菌叢   ・高齢雄マウスにおける脳卒中後のアリール炭化水素受容体のリガンドの微生物由来 […]

2025年10月30日

【関連論文】腸内細菌・FMT研究まとめ(2025.10.30)

<目次> ・都市化が小型哺乳類群集と腸内細菌叢の相互作用に及ぼす影響の探索 ・関節リウマチリスクを有する個人の腸内細菌叢の動態:横断的および縦断的観察研究 ・腸内細菌叢由来のリン脂質は腸内遺伝子発現を調節し、抗生物質治療 […]