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1型糖尿病マウスにおけるFMTの治療効果の比較検証[第3回総会発表内容]

2019年9月23日、一般財団法人腸内フローラ移植臨床研究会の第3回総会「腸内細菌から人類への手紙」が開催されました。

今回は、当研究所 総括研究員 岡洋一郎の発表内容のうち、「1型糖尿病マウスにおけるFMTの治療効果の比較検証」をまるごとお届けします!

動画の初めから10分15秒あたりまでが、本発表の内容です。

背景

まずはじめに、近年、生物学的分野におきまして、遺伝子レベルの解析技術の発展により、ヒトの腸内細菌叢(腸内フローラ)が詳しく調べられるようになりました。
こういった腸内細菌叢を解析していくなか、腸内フローラの乱れや、多様性の減少による各種疾患との関係性があきらかになってきました。

その一方で、腸内フローラを改善すればその疾患が治るのではないかということで、糞便細菌叢移植(FMT)というものがあります。

そこで今回は、我々の開発したウルトラファインバブル(UFB)を利用したヒト菌液で1型糖尿病マウスの糞便細菌叢移植(FMT)による治療効果を検討しました。

血糖値の調節と糖尿病のメカニズム

まず、血糖値の調節因子のお話です。

一般的に健康な方という前提でのお話とします。通常、体のなかの血糖値のバランスは主に2つの調節因子から成り立ちっています。

1つ目は血糖値を下げる働きをもつ血糖値降下ホルモン、2つ目は逆に血糖値を上げる働きをもつ血糖値上昇ホルモンです。
血糖値降下ホルモンの代表がインスリン、血糖値上昇ホルモンはグルカゴン、コルチゾール、カテコラミン、成長ホルモン、甲状腺ホルモンなどが知られています。

よってこれらのホルモンにより、血糖(グルコース)は下降因子ホルモンであるインスリンと、上昇因子である5つのホルモンによってバランス(調節)されているということです。

ただし、血糖上昇ホルモンは通常、血糖値が80mg/dLを下回らないと分泌されないということがあります。

そこで次に糖尿病のお話に移ります。
糖尿病というのは血液中の糖(グルコース)が増えることで体に様々な悪い症状をもたらす病気です。

増えすぎた血液中の糖はインスリンによって適切に調節されなければなりませんがその頼みの綱であるインスリンが働かなくなることで引き起こされます。
インスリンの働かない仕組みにはインスリンが分泌しない(出ていない)、1型糖尿病と言われるものと、インスリンは(出ている)分泌しているんだけどインスリンの作用が十分ではない2型糖尿病があります。

また近年、糖尿病はインスリンだけでなく、グルカゴンの関与も指摘されるようになり、食前、食後にグルカゴン分泌増加があると言われています。

1型糖尿病マウスの実験と考察

今回、1型糖尿病マウスをストレプトゾシンというお薬で人工的に作成、準備しました。この糖尿病マウスを6匹ずつ4群に分けました。

4群の内容としては、治療しないA群、インスリン治療のB群、我々が開発した水(UFB)のみ注腸したC群、UFBにヒト菌液を混ぜたものを注腸したD群です。実験期間は14日間です。

測定項目です。今回、血液に関しては血糖を移植前、移植後の7日目、14日目の3ポイント、インスリンは移植後14日目の1ポイントで測定しました。

糞便は移植前と移植後の2日目、6日目、12日目、14日目の5ポイントで菌叢解析を行なっています。

血糖値・インスリン値の結果

まず、血糖値の結果です。移植前、移植後7日目において4つの群に差はありませんでした。14日目はヒト菌液移植群で他の3つの群より120mg/dL低い値になりました。

次にインスリン値です。ヒト菌液移植群がインスリン治療群の次に高い値にありました。

菌叢解析の結果

次は菌叢解析です。ここでは各菌グループを検出割合の数値として表にしています。縦の列、左から治療なし、インスリン治療、UFBのみ、ヒト菌液移植群の4群になります。

移植前は4群の全てでビフィドバクテリウムや表の下の方のCクラスターに検出はありませんでした。

移植後2日目。治療なし群にもありますが、菌液移植群にビフィドバクテリウムを認めています。

6日目。ヒト菌液移植群は他の3つの群に比べ赤いところの菌グループの検出が増えてきています。

12日目。ヒト菌液移植群の赤いところが維持されています。

14日目。菌グループの赤いところの検出は変わりませんでした。

結果のポイント

血糖値はヒト菌液移植群が約120mg/dL低い値にありました。

インスリン値についてはヒト菌液移植群がインスリン治療群の次に高い値を認めました。

菌叢解析はヒト菌液移植群で菌叢に多様性がみられました。

考察 〜なぜ血糖値は下がったか?

では何故今回のヒト菌液移植の糖尿病マウスで血糖値が抑制されたのかという理由なんですが、まず今回1型糖尿病なのでインスリンは出ていません。
糖尿病により高血糖状態なので血糖上昇ホルモンも出ていません。

では何故血糖値は下がったのか?

糖尿病といえば高血糖、インスリン投与、イコール血糖値降下ホルモンと連想してしまうのですが、実は最近すでにインスリン以外に血糖値をコントロールできるお薬になったものがあります。

正確には今からご紹介するものが直接お薬になっているという訳ではありません。その因子の働きに関係しているのではないかということです。

それがインクレチンというホルモンで消化管から分泌されます。インクレチンは腸管内で腸内細菌などが産生する短鎖脂肪酸がL細胞に作用してGLP-1というホルモンを分泌します。

実はインクレチンにはGLP-1の他にGIPというホルモンがあり、その総称がインクレチンです。今回GIPのお話は省略します。
そのL細胞から分泌されたGLP-1は膵臓に作用してインスリンの分泌の促進、一方でグルカゴンの分泌抑制に働きます。

またGLP-1は中枢神経系や胃などにも作用して血糖値の上昇抑制に寄与しています。

今回の血糖値が他の3群より低値であったのはヒト菌液移植によるマウス菌叢の多様性変化で短鎖脂肪酸の産生があった可能性が考えられます。

まとめ

今回UFB+ヒト菌液移植群で以下のような観察がありました。

1.血糖値の上昇抑制
2.インスリン値はインスリン治療群の次いで高い値
3.細菌叢に多様性を認めた

今回、1型糖尿病マウスのFMTによる血糖上昇に抑制効果を認めました。
一方で測定しておかなければならない検査項目が十分でないためにその機序の解明には至りませんでした。

今後、追加試験を実施して血糖降下作用を明らかにしたいと思います。

動画の初めから10分15秒あたりまでが、本発表の内容です。

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