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アトピー性皮膚炎に対する便移植(以下、FMT)の治験が始まりました inイスラエル

イスラエルで、アトピー性皮膚炎に対する便移植(以下、FMT)の治験が始まったという報告を紹介します。
詳しい治験や患者の情報は以下の通りです。
〇 二重盲検試験による。

原文:Efficacy of Fecal Microbial Transplantation Treatment in Adults With Atopic Dermatitis – Full Text View – ClinicalTrials.gov

【患者さんについて】

〇 患者の年齢: 18歳以上
〇 患者の性別: 男女
〇 重症度: 中等症~重症、重症度は、国際的によく利用されている、SCORAD score(the Scoring Atopic Dermatitis Score)とInvestigator Global Assessment scale for Atopic Dermatitis(IGA)いう指標で評価する。
補足として、SCORAD scoreは、アトピー性皮膚炎の皮疹の面積、皮疹の強さ、自覚症状の3つから評価し、103点満点で点数化するもの。今回の治験では、25点以上の中等症~重症の患者を対象とする。
いっぽう、IGAは、日本語では「皮膚病変スコア」とも呼ばれるもの。0~4の5段階で、4が最も重い。その病変がどれだけ重症であるのかを0点~4点で評価するものである。

【治験の方法について】 

〇 方法:
患者を2つの群に分ける。第一群、第二群はともに、2週間おきに4回、FMTあるいはプラセボの移植を受ける。患者は、新たな治療を始めることはないものの、これまで受けていた保湿剤や糖質コルチコイドの局所的、あるいは全身的な治療は継続することが許されている。
また、この治験の開始時・移植の直前・移植後1か月~6か月で、the SCORAD scoreとIGA、週にステロイド剤を用いた量の3つを指標として、患者の重症度をはかる。このとき、患者の腸内の微生物叢も調べる。

〇 移植に用いる菌液等の製法:
ドナーより得た便100gあたり600mLの生理食塩水で希釈する。その後、得られた液をろ過し、遠心分離により濃縮する。得られたペレットは、20%のグリセロールを混ぜた生理食塩水で希釈する。それからカプセルに封入し、保管は-80℃で保管。プラセボに用いるものは、グリセロールのみを希釈する。

〇 ドナーについて:
年齢は18歳~50歳、性別は男女。体形はふつうで、3か月以内に抗生剤を服用した人はいなかった。

【感想など】

現在は治験がはじまったばかりで、結果はまだ出ていないようです。
そもそも、アトピー性皮膚炎の『アトピー(atopy)』ってどんな意味なのでしょう?と思って調べてみたら、
「『奇妙な』とか『見慣れない』を意味するギリシャ語の『atopia』が語源となっている。家族、あるいは家系内に出現する異常な過敏反応として、1923年にCocaとCookeによって名付けられた」
のだそうです。(岐阜県薬剤師会ホームページによる)

たしかに、アトピー性皮膚炎は治ったりひどくなったりを繰り返す、『奇妙な』病気という面もあります。かゆみによって不眠が引き起こされることもあり、患者さんのQOLを低下させるやっかいな面もあります。
このような疾患ですから、薬剤ではない、新しい治療の可能性である、FMTの今後の結果にも期待したいと思います。

アトピー性皮膚炎は多くの人が付き合っている病気ですが、専門的な重症度の評価については全く知らなかったので、いい勉強になりました。病気と一口に言っても、それを治療するためには、客観的で適切な評価がなされなければいけません。

世にはさまざまな病気がありますが、病気一つ一つに評価法や症状の水準があって、お医者さんはこれらを基にして、患者さんに処方する薬や治療法を選択しているのだと気づかされました。

※本投稿は、2021年5月8日にオンラインにて行われた一般財団法人腸内フローラ移植臨床研究会 会員向け勉強会の内容の一部を再編集したものです。

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